大昔に書いた宇田鋼之介監督について書いた文章を晒してみる。

 『虹色ほたる』や『銀河へキックオフ!!』で宇田鋼之介監督を再評価する流れだと思ったので、大昔に書いた文章を発掘してみた。
(ちなみに知人はこのとき佐藤竜雄監督について書いている)
 ……けど、恥ずかしすぎるので当時の日付。

第86話「サフィール絶命! ワイズマンの罠」

 宇田鋼之介さんの演出で一番好きなのは#86「サフィール絶命! ワイズマンの罠」です*1


 #86はちびうさ編の中でも一番好きな回で、なんといってもサフィールとペッツのロマンスが泣かせます。あの#24「なるちゃん号泣!……」を越えてるんじゃないかな、と思う*2。この回だけでペッツとサフィールの悲劇をうまくまとめ上げているのはお見事!としか言いようがない。また、この回はみんなカッコいいんだ。サフィールもペッツもデマンドも。もちろんセーラー戦士達やほかのわき役達も。


 まず冒頭のちびうさのことを想ううさぎ達の描写は秀逸でしょう。育子ママがちびうさのティーカップを持ってきたことにうさぎが気付いた瞬間に止まるBGM。育子ママの退場と同時にBGMは再び流れるが、このときのピントは手前にあるちびうさのティーカップに合っている。このシーンだけでちびうさがいないことによる喪失感がうまく表現されています。
 次のシーンからはずっとブラックムーン側の描写になっています。これだけの時間*3を敵側に割くのは珍しいと思いますが、この辺りが宇田さんのこだわりなのでしょう。それから、倒れるサフィール*4、介抱するペッツ*5、とお話はサクサクと進んでいく。
 Bパートの最初のカットでサフィールの上着をみせているが、これが最後まで物語を盛り上げる。無理をしようとするサフィールに抱きついて止めようとするペッツ*6、足元に落ちるペッツの涙、泣いているペッツ対し優しく微笑みかけるサフィール、上着を抱きしめながら出ていったサフィールを想うペッツ。この一連のシーンはメロドラマそのものって感じですばらしい。
 コーアンがうさぎ達にたすけを求めるシーンからは、いよいよ緊迫した雰囲気になっていきます。戦闘シーンの中のやりとりは小気味よいテンポで進む。ちびうさの攻撃のバリエーションの多さ、カッコよくて間の抜けているセーラー戦士の攻撃、などいかにもセーラームーンらしい戦闘シーンである。
 ようやくサフィールとデマンドが出会う*7。話し合おうとするが、かんぱつ入れずにワイズマンに攻撃される。倒れるサフィール、絶叫するデマンド*8。死ぬ間際にペッツに謝るサフィール。このとき上着が落ちるの。
 サフィールの上着を抱きしめるペッツ。このあとにペッツが回想するサフィールの微笑みはなんとなく悲しげで、ラストシーンで流れ続けているオルゴールがその瞬間だけ止まるのが印象的です。


 いまいちまとまりのない文章になってしまいましたが、とにかくこの話はよいです。幸いもうすぐ*9LDが発売されますので、是非ともごらんください。巷で不評だった「ちびうさ編」の中で、観る価値のある作品のひとつです。

宇田さんの演出について

 まずカット、シーンのつながりがうまい。なんといってもカットの切り替わりが小気味良い。特別なことがない限り1カットは短めなので、観ていて飽きることがないんだよね。また、台詞が終わってすぐシーンが切り替わったり、逆にシーンの最初にすぐ台詞がきたり、といったものも多いと思う。また、カットにあわせたBGMの使い方なんかもいいです。
 それ以外にも音楽の使い方はうまいです。例えば#86の冒頭でうさぎのママがちびうさの分のティーカップを持ってきた瞬間BGMが途切れるのですが、これでちびうさが居ないことの寂しさが強調されているし、またラストではペッツがサフィールの微笑みを回想する瞬間にもBGMを止めて悲しさが強調されています。ほかにもいいな、と思わせるBGMの使い方がたくさんあります。また、逆に不要と思われるシーンではBGMを極力流さないようにし、BGMが効果的に使われるように配慮しているようです。
 それから必殺技の使い方がうまい。必殺技をだすときでも、バンクを単純に使わないですし。例えば#81ではムーン・プリンセス・ハレーションの途中、スパークリング・ワイド・プレッシャーでキラル・アキラルを足止めしてからとどめをさす、といった感じです。ほかにもこういった一風変わった必殺技の使い方をいろんな個所でやっています。
 カメラワークについてはローアングルと俯瞰が効果的に使われているのがいいですね。ローアングルが多いのはひょっとしたら本来の視聴者(‖お子様)に合わせているのかもしれないけど。いずれにせよ平面的になりがちなアニメで立体的な構図をうまく作っています。
 そしてなにより、キャラクターの表現がいい。なんというか、キャラクターがみんな活き活きしてるし、演技や表情が細かいとこまでしっかりとかかれているし。誰かの台詞をさえぎっての台詞、といった表現が多いのもそのためでしょう。小物の使い方も実にうまい。5人の普段の生活がきちんと描かれているってとこもポイント高いよね。

最後に

 時間がなくてこの程度のものになってしまいました。本当は全作品の解説も出来ればよかったのですが……*10
 機会があれば完全版とか、またほかの演出家の本を出したいと思います。


 それにしても、セーラームーンってすばらしい作品だと思う。この本を作るために見直したんだけど*11、観ていて飽きなかったですから。幾原さん、佐藤さんを筆頭にした演出家のみなさんの努力のたまものでしょう*12
 これからもずっとがんばって欲しいものです。

*1:#45「セーラー戦士死す!……」とか#61「……衛の絶交宣言」も好きなのですが、これらは絵コンテを佐藤さん・幾原さんが担当しているため、とりあえず除外かな……と

*2:#24が子供の恋愛なのに対して、#86は大人の恋愛という違いはあるにせよ

*3:本編20分のうち、10分以上

*4:このときの構図はすばらしいです

*5:カメラの前をお尻のアップが横切るとこがいいです

*6:このとき悲しげなBGMがF・Iしてくる

*7:このときの「話し相手は見つかった」と空を見上げるサフィールがなんともカッコイイ!

*8:ここが一番の見せ所でしょう

*9:1月21日かな

*10:#86の解説ですらあんなものですからね

*11:宇田さんの回はそれこそ何回も

*12:どうしても好きになれない演出の人もいることはいるのですが……